
子育て世代必見!【子どもがよりよく生きるためのライフスキル教育のハナシ 前編】
元校長先生が聞く ○○のハナシ
対談第11回
第11回 ライフスキル教育研究家 池田真理子先生×元京都市立小学校校長 太田由枝先生
この連載では、ポピーで長年子育ての悩みに寄り添ってきた「ポピー教育対話主事」の先生方が、様々な分野で活躍中の方へインタビューします。第11回目の対話主事は、太田由枝先生です。
今回お話を伺ったのは、30年に渡り、「ライフスキル教育」に取り組んできた池田真理子先生。子どもには、自分らしく、よりよく生きていってほしい――。そのために必要な力を育むのが「ライフスキル教育」です。子どもの生きる力を育むポイント、家庭のありかた、親子のつながりやコミュニケーションなど、子育てにぜひ活かしたいお話を伺いました。

池田真理子(いけだ・まりこ)先生(ライフスキル教育研究家)
福山平成大学 就実大学 非常勤講師。小学校の養護教諭として広島県福山市の小学校に勤務、教頭・校長を経て定年退職。在職中に「ライフスキル教育」に出会い、30年に渡り取り組む。2018年、関西福祉大学大学院看護学研究科修士課程修了。現在は、養護教諭を目指す学生を指導する一方、学校相談員としても活躍。JKYBライフスキル教育研究会運営委員、元JKYBライフスキル教育研究会中国・四国支部長。著書に「ウェルビーイングをデザインする ―未来に生きる子どもたちが自分で決めてつながる力をはぐくむ― ライフスキル教育プログラム小学校低・中学年用(東山書房)」。
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太田由枝先生(おおた・ゆきえ)先生(ポピー教育対話主事)
京都府京都市出身。教職修士。1982年より京都市立小学校教諭、2014年より京都市立小学校校長。専門は国語科教育、メディア教育。小学生アナウンスコンクール審査員・作文コンクール審査員など、「話すこと・書くこと」「伝えること」領域での実践が豊富。2020年4月より、全家研ポピー教育対話主事に就任。教職経験を生かした子育て情報の発信や教育講演会などで活躍中。
ライフスキル教育との出会い

太田由枝(以下、太田) 池田先生は、養護教諭(保健室の先生)として勤務され、その後、教頭や校長など管理職も経験されています。小学校の現場で、多くの子どもたちを見てこられたのですね。
池田真理子(以下、池田) 養護教諭だった頃は、保健室登校する子が現れ始めた時代でした。
太田 一般的には、養護教諭はけがの手当てをしたり、体調不良の子どものケアをしたりするイメージがありますが、実は、生徒指導の要(かなめ)なんですよね。子どもが健康な心で学校に来られるかどうか、カギを握っている存在というか…。
池田 養護教諭は、学校全体が見えるのです。おうちの人と子どもの関係などもよく知っています。なぜなら、子どもが保健室に来て愚痴をこぼすことが多いから。
太田 子どもたちが心を開いているんですね。ところで、ライフスキル教育を知ったきっかけは?
池田 きっかけは、「歯と口の健康づくり」の取り組みです。生活習慣として歯みがきの習慣が身についている子と、なかなか身につかない子がいるんです。最初は、歯磨きが出来ないのは知識がないせいだろうと考え、子どもに知識や情報をせっせと伝えました。

太田 その結果は?
池田 子どもに「先生、歯と口の健康のことはわかってる。もう飽きた」と言われたのです。
太田 子どもって、正直ですものね。
池田 ショックでした。でも、知識だけでは習慣を定着させることはできないんだなと悟りました。では、どうしたらいいんだろう…。いろいろ思い悩んでいるとき、ある研修会に参加して、ライフスキル教育に出合いました。
太田 ライフスキル教育とは?
池田 世界的にも認められて、WHOも評価している教育法の一つです。当時、文科省が推進していた「生きる力」を育む教育と根本は同じだと分かり、ライフスキル教育にのめり込みました。
太田 子どもの言葉で「え?」という気づきがあって、それを解いてくれたのがライフスキル教育だったのですね。
池田 ライフスキル教育を勉強して、歯みがきの習慣を身につけられないのは、自分を大切する気持ちが少ないからだと気づきました。知識だけではなく、自分の体や心を大事にするという意識や、自分にはその力があると思える自信が必要なのです。
太田 ライフスキル教育は、生き方の根幹と密接に関わっているのですね。
池田 その通りです。そのためには、従来のような指導法ではなく、子ども同士が学び合うスタイルも必要だと思いました。

学校とライフスキル教育 ――小さいうちから全体で
太田 ライフスキル教育は、学校現場で広がっていますか?
池田 少しずつ理解が深まってはいますが、今の学校教育の中にライフスキル教育を取り入れるのは難しいようです。
太田 確かに。どの教科なのか難しいですね。保健体育として教えるか、それとも保健指導の時間か…。
池田 私は、ライフスキル教育は原理原則を教える教科とは違うので、総合的な学習の時間などを使って、長い期間に渡って教えるべきだと思います。それも、低学年から。
太田 それはどうして?
池田 5年生~中学生の指導案づくりに取り組むうちに、もっと小さいうちから取り組んだほうがいいと実感したのです。また、ライフスキル教育でいう「セルフエスティーム(=健全な自尊心)」を育むためには、学校全体で取り組む必要があると思いました。
太田 1年生から6年間積み重ねて身につくものは多いですね。
池田 教職員が同じ方向を向いて頑張っていけば、学校は、子どもたちが生き生きと過ごせる素晴らしい場所になります。子どもたちのために、ライフスキル教育がもっと広がればいいなと思います。

家庭とライフスキル教育 ――まずは大人の姿勢から
太田 ライフスキル教育は、学校だけでなく、家庭でも意識したいものですよね?
池田 そうですね。といっても、難しいことはありません。まずは、子育てに頑張っているお父さんお母さんをはじめ、子どもと接している周りの大人が、自分自身のウェルビーイング(=幸せである)を大切にしてほしいと思います。
太田 大人の幸せ?
池田 周りの大人、お父さんやお母さんが幸せで安定しているなら、子どもも安心できますから。
太田 まずは、足元を見直すのですね。

池田 ほめることも大切です。家庭では、ほめることを大事にした子育てを意識してほしいと思います。と言っても、ただほめればいいわけじゃないのですが…。
太田 ほめるコツは?
池田 子どもの様子をよく見て、努力の過程をほめることが大切です。「最近、漢字ドリルの宿題を頑張っていたから、テストの点が前より上がったね」「今週も毎朝、きちんと起きたね」と、理由付けしてほめるのがおすすめです。おうちの人は自分をよく見てくれていると、子どもが感じることが重要なのです。

太田 身近で子どもを見守っているからこそ、できることですね。
池田 親同士がほめ合うというか、認め合うことも大切です。家庭の中で、「〇〇してくれて助かったわ」「この料理、おいしいね。ありがとう」という会話も、子どもは耳にしていますから。
太田 耳が痛いです…。うちもそうですが、認め合っていないわけではないけど、お互いに「言わなくてもわかっているでしょ」というか、あまり意識していないおうちも多いと思います。でも、大事なことですよね。
池田 先生もそうですが、親御さんなど周囲の大人の行動は、子どもが学ぶロールモデルです。
太田 本当にそうですね。学校も子どもが自分を大切にすることや、人を大切にすることを学べるように頑張っていますが、家庭の力も必要ですね。

池田 そもそも、大人だって、ほめられたいんですよ!
太田 うんうん。なかなか、そういう機会は少ないですけど(笑)。
池田 ほめることも含め、気持ちを言葉にするって、とても大事なことだと思います。それは、ライフスキル教育として、子どもたちに伝えたい目標の一つですから。
太田 ライフスキル教育に興味が湧いてきました。ライフスキル教育について、もっとお話ししてください!
池田 ライフスキル教育とは…。
ライフスキル教育とは? それによって得られる「生きる力」とは? 後編へ続きます。