子育て世代必見!【元校長先生が聞く 理科と人生のハナシ 後編】
元校長先生が聞く ○○のハナシ
対談
第1回 理科実験パフォーマー 松延康さん × 元東京都公立小学校校長 山田正樹先生
「ポピー教育対話主事」の先生方が、様々な分野で活躍中の方をインタビューするこの企画。引き続き、教育対話主事の山田正樹先生が、農学博士で理科実験パフォーマーの松延康さんへお話をうかがいます。
松延康(まつのぶ・しずか)さん(農学博士、理科実験パフォーマー)
1957年東京都出身。北里大学大学院獣医畜産学博士課程修了(農学博士)。短期大学専任講師、看板職人、ガードマン、医学研究員など様々な職業を経て、地元、小平市で「夢Juku」を開塾。小・中学生に生きていくための「勉強」を教えている。また、全国の幼稚園、小・中学校、科学館などで年間100回以上の理科実験授業・講演を行う。NHK教育テレビ「となりの子育て」、日本テレビ「世界一受けたい授業」、テレビ東京「ソレダメ!」などテレビ出演・監修も多数。
山田正樹(やまだ・まさき)先生 (ポピー教育対話主事)
東京都出身。東京学芸大学卒業。小学校教員として40年間にわたり子どもたちとかかわる。小平市で副校長・校長として学校経営も 行う 。専門は算数教育。ICT機器の教育への利活用にも積極的に取り組む。令和3年4月より、全家研 ポピー 教育対話主事に就任。インスタライブや動画での情報発信、教育講演会など活躍中。
今、初めて明かされる!? 『松延康物語』
山田:松延さんは学習塾を開いたとき、実験授業で全国を回ることも考えていた?
松延:全然。今、ここに僕がこうしているのは、全てなりゆきです(笑)。
山田:えっ、本当? 小さいときはどんな子どもだったの?
松延:小学校のときの僕は、学校の授業を聞いていたという記憶がない。
山田:そ、それは……(笑)。授業中は何をしていたか、覚えている?
松延:ずーっと妄想してました。自分だけの物語を、頭の中で。そんなときに先生に指されたら、指された問題の答えじゃなくて、頭の中の物語の続きをしゃべっちゃって。おかしいでしょ?
山田:松延さんのそんな話は、初めて聞いた。好きな教科は、やっぱり理科?
松延:いやいや、全く。国語が少しできたくらい。中学まではそんな感じでした。
山田:理系に進もうと思ったのはいつ?
松延:高校3年の秋に、当時付き合っていた女の子が「獣医ってカッコイイよね」って言ったのを聞いたとき。私立文系コースだったけれど、次の日先生に「獣医学科を受けます」と言いに行きました。そしたら先生が「お前、アホか」って(笑)。
山田:それも初めて聞いた(笑)。
松延:結局、獣医学科のある大学を片っ端から受験して、見事全て不合格。彼女には振られ、ダラダラとプータローの日々。入学できたのは22歳、4浪した後でした。
今の自分を作ってくれたのは 指導教官の「だ〜〜いじょうぶ!」
山田:今の松延さんのキャラクターを作ったのは誰になるのかな? ご両親?
松延:父は国文学者で剣道家、母は自宅でお花や書道を教えていました。勉強についてはほとんど何も言われなかったけれど、それは、僕があまりにも勉強ができなかったからじゃないかな。
山田:大学では実験や研究が主でしょう。学んでみての感触は?
松延:優秀な友達に影響されてすごく勉強したし、研究も好きでした。それで、大学に残って先生になろうと思ったんです。
山田:理系で学位を取るのは大変なんでしょう?
松延:それは運良く。思えばそのときの指導教官だった教授が、今の僕の性格を作ってくれましたね。僕はもともと、すごく細かくてネガティブなタイプだったんです。
山田:本当? とても想像がつかない。
松延:教授は「だ〜〜いじょうぶ!」が口癖。「だ」のところにアクセントね(笑)。実験のデータがきれいにそろわず、焦っている僕に「だ〜〜いじょうぶ! 一つ一つが整っていなくても、全体で見るとまとまってるだろ? ほら」と、明るく言ってくれる。それが妙に説得力があって、「そうか!」と、自信を持たせてくれましたね。
山田:なるほど。人に歴史ありだなぁ。
「今」を気にしすぎると 不安が大きくなるだけ
松延:僕は実験授業のとき、子どもたちに「人生、色んなことがあるけど、だ〜〜いじょうぶ!」という話をするんです。すると授業の後で、「先生にそう言ってもらってほっとした」と感想を伝えてくる子どもがいる。
山田:そんなことがあるんだ。それは深刻だね。
松延:でしょう? 小学生が、僕の「大丈夫」という言葉に救われるなんて、ただごとじゃない。
山田:子どもの学校での順位をすごく気にしている保護者は多いから、そのプレッシャーもあるだろうね。
松延:でも、本当はそんなに気にする必要はないんですよ。保護者が描いている理想の形にこだわらなくてもいい。僕は、子どもがどういう風に幸せになるか、その過程には興味がないんです。どんな形でも、最終的に幸せならば、それでいいじゃない。
その最たる例が僕自身かもしれないですね(笑)。
山田:保護者が点数で判断するから、子どももそれを気にしてしまうんだよね。授業では、点数を取れることも大切だけど、大きな目的は「学ぶ楽しさ」を知ること。さらに学校生活全体の中で、一人一人の子どもが輝ける場をつくるということを大切にしているんだ。一人一人が自分のいいところをのばし、自信を持ってがんばれるように応援したいと思うよ。
松延:授業の後に「Jリーガーになりたかったけれど、研究者もいいなって思いました」と言いに来てくれたときは嬉しかった。研究者とJリーガーを同じ土俵に並べて考えてくれたんだと思って。
山田:考えることや学ぶ事を「面白い」と思ってくれたら、それは我々にとって宝物だよね。
子どもにとっての「幸せ」って 何だろう?
松延:僕が理科の実験授業を通していちばん伝えたいのは、「センス・オブ・ワンダー」を持ち続けようということです。「センス・オブ・ワンダー」とは、不思議なことに素直に驚き、「どうして?」と疑問を持ち続ける感性のこと。
山田:生物学者で環境問題にもいちはやく声を上げた、レイチェル・カーソンの著書のタイトルとしても知られているよね。
松延:子どもたちに自然の素晴らしさや生きている不思議さを持ち続けてほしい。それを子どもに伝えるには、大人が変わる必要がある。だから僕は実験授業で、子どもの後ろにいる親や先生たちに向かって呼びかけているんです。
山田:大人自身が「センス・オブ・ワンダー」を持っていると、子どももその感性が高まっていく。きっと理科も好きになるね。それと同じで、結局、子どもが幸せになるには、まず親自身が幸せでいる必要があるということだね。
松延:そのことを忘れないでほしいですね。
始めこそかしこまった雰囲気でしたが、話が進むにつれて、お二人の教育者としての確かな信念が見えてきました。心地よいテンポの会話は、音楽好きなミュージシャン気質のなせる技だったかもしれません。