
子育て世代必見!【親子で知っておきたい!知的財産のハナシ 前編】
元校長先生が聞く ○○のハナシ
対談最終回
最終回 弁理士 廣田浩一さん × 元東京都公立小学校校長 村松守夫先生
この連載では、ポピーで長年子育ての悩みに寄り添ってきた「ポピー教育対話主事」の先生方が、様々な分野で活躍中の方へインタビューします。最終回の対話主事は、村松守夫先生です。
お話を伺ったのは、弁理士の廣田浩一さん。弁理士とは、知的財産を扱う専門職です。果たしてどんなお話が飛び出してくるでしょうか?

廣田浩一(ひろた・こういち)さん(弁理士)
山梨大学工学部発酵生産学科卒業。ヘキスト・ジャパン株式会社(現:サノフィ株式会社)医薬総合研究所勤務。1995年弁理士登録。2000年から2022年まで山の手合同国際特許事務所 所長。2023年より廣田弁理士事務所 所長、オンダ国際特許事務所 顧問。北里大学大学院、埼玉医科大学大学院等で非常勤講師も務める。小学校への出前授業「ひらめき教室」開催など、知的財産の専門家の傍ら、多くの教育現場に出向き、知的財産についてわかりやすく楽しい授業を行っている。

村松守夫(むらまつ・もりお)先生 (ポピー教育対話主事)
大阪府出身。42年間の教員時代は、都立立川ろう学校を最初に小学校10校での勤務を経験。13年間、校長として3校の学校経営を行う。専門は社会科教育と特別支援教育。日本教育技術学会会員。2024年度より、全家研ポピー教育対話主事に就任。インスタライブや動画での情報発信、教育講演会に力を注ぐ。
弁理士になるには、年に1回行われる試験に合格する必要があります。試験は筆記試験と口述試験があり、筆記試験に合格しないと先に進めません。筆記試験にも短答式と論述式があり、短答式に合格しないと、論述式の受験資格が得られません。合格率は6.0%(2024年)で、取得が非常に難しい資格です。
「弁理士」の仕事って?
村松守夫先生(以下、村松):今日はよろしくお願いいたします。廣田さんは現在、弁理士という仕事をされています。非常に専門的な仕事だと思いますが、簡単にいうと、どんな仕事なのでしょうか。
廣田浩一さん(以下、廣田):たとえば、皆さんが聞くことの多い「弁護士」は、法律の専門家として裁判での代理人として仕事をします。弁理士も同じように、知的財産を守るための専門家としての仕事をしています。
一見何でもないアイデアや発見が製品化されて、大きな利益を生み出すことがあります。そのとき、誰かに模倣されたり、先取りされないよう、権利をとっておきたいですよね。その権利を得るための手続きなどを代理するのが弁理士です。
村松:権利というのは、たとえばどんなものですか。
廣田:特許権や実用新案権、意匠権、商標権などがあります。 「実用新案……」とか、「○○は××の登録商標です」など、耳にしたことがありませんか。
村松:そういえば、広告の隅に小さく書いてあったりしますね。
廣田:発明や発案をした人の権利が侵害されたときは、代理人として訴訟の対応をすることもあります。

村松:とても専門的な仕事なのですね。弁理士になろうと思われたのには、何か理由があるのですか。
廣田:最初から弁理士を目指したわけではありません。実は、私はもともと製薬会社の研究員だったのです。
村松:えっ、そうなんですか。理系の専門職ですね。そこからどうして?
廣田:研究所では薬の開発をしていました。そこで劇薬を扱う作業中に、機器の不具合によって、顔に劇薬を浴びて、火傷をする事故に遭ったのです。
幸い、たまたまゴーグルとマスクをつけていたので失明こそ免れましたが、この事故をきっかけに、ほかの道に進むことを考えるようになりました。
村松:大変でしたね……。そんなことがあったなんて。
そこから弁理士の道に?

廣田:ええ。ちょうど会社の先輩が弁理士を目指していて、「こんな仕事がある」と紹介してくれたのです。「大学までに身につけた理系の知識を生かして、専門家として働くことができる」と思って、この道に飛び込みました。
「知的財産」と「著作権」はどう違う?
村松:さきほどの話の中で、「知的財産」という言葉が出てきました。一方、「著作権」という言葉があります。この二つは何となく意味が似ているように感じます。両者の違いは何でしょうか。
廣田:知的財産の「知的」とは、人間が考えること。人間の創造的な活動のことです。そして「財産」とは、価値のあるものという意味です。したがって、知的財産とは、人間の考えから生まれたアイデアや創作物など、財産的な値打ちのあるもの全てです。
この中には、特許権や意匠権、実用新案権、商標権、著作権などが含まれます。つまり著作権は、知的財産を守る権利のうちのひとつなのです。

村松:なるほど、弁理士はそのような知的財産全てを取り扱っているわけですね。
廣田:そうです。汗を通してすぐ乾くウエアなど、技術的な工夫は「発明」、わかりやすいデザインなどは「意匠」、その印があると、どの会社の製品なのかすぐ分かるマークは「商標」、といったように、いろいろな種類があります。

村松:著作物は、文章や写真、イラストといったものですね。
廣田:音楽もそうですね。そしてそれぞれ、「特許法」や「意匠法」「著作権法」などの法律で守られています。
村松:ありがとうございます。おかげで整理できました。 これを読むおうちの方が、著作物を使用するときに注意することがあれば、教えてください。
廣田:著作物の利用についてよく言われるのは「勝手に自分のものにしない」ということです。
ですが創作物というものは、先人の工夫や知恵を参考にして、次のいいものを生み出していくというサイクルがあります。ですから、「絶対に使ってはいけない」というものではなくて、自分の手元の範囲でお手本にすることは禁じられてはいません。
村松:音楽CDを自分のプライベートでコピーするとか、本のページを自分だけの参考としてコピーするといったことですね。
廣田:そうです、自分の家で音楽CDをコピーしても、自分や家族が楽しむだけならば、著作権の侵害にはなりません。
村松:広告や商品パッケージなどで見かける©やⓇなどはどうでしょうか。
廣田:©は著作権があることを表すマークで、キャラクター商品にはほぼ入っています。しかし、たとえマークが入っていなくても、誰かが作った著作物には著作権が成立しています。ですから、勝手に複製したりすることはできません。 Ⓡは登録商標を表していて、企業が自社の商品やサービスを他のものと区別するために使うマークです。
村松:子どもが家の中で遊ぶ分には、どちらも問題ないでしょうか。
廣田:商標登録はビジネスの場面で問題になることですから、お子さんが遊ぶ分には問題ないでしょう。著作権についても、私的使用の範囲を越えなければ大丈夫です。ご家族の中だけで楽しむようにすれば、心配はありませんよ。

イラスト:あきんこ
いかがでしたか?後編では、知的財産についてのお話をさらに掘り下げていきます。お楽しみに!