「無意識の思い込み」を減らそう ~子どもの気持ちの理解が難しい理由と、近づくための5つの工夫~

「無意識の思い込み」を減らそう ~子どもの気持ちの理解が難しい理由と、近づくための5つの工夫~

幼児期にこそやるべき6つのこと

幼児教育とコーチングのプロの江藤真規先生が、「幼児期にこそ家庭でやるべき6のこと」を伝授。明日からの子育てが変わります!

「この子の気持ちを理解して尊重したい」
幼児期の大切さを知れば知るほど、その思いは強くなります。しかし実際には、子どもの気持ちを理解することは、簡単ではありません。語彙がまだ十分ではないという理由もありますが、それだけではないようです。
「〇歳ならこのくらいできて当然」
「この子はいつもこうだから」
こうした大人の思い込みが、子どもの本当の気持ちを見えにくくしてしまいます。本コラムでは、無意識に抱きやすい「思い込み」に目を向けながら、子どもの気持ちに近づくためのヒントを考えていきます。

江藤 真規 先生

江藤 真規 先生

幼児教育とコーチングのエキスパート。
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。IPU・環太平洋大学 特命教授。アカデミックコーチング学会理事。
幼児教育のエキスパートとして、幼児教室の運営と保育士指導を行うとともに、教育コーチングオフィス サイタコーディネーション代表として、保護者や教職員を対象とした講演・セミナー、執筆活動などを行っている。子どもの主体性と思考力・表現力を育む家庭環境作りにも定評がある。

子どもの本当の気持ちを知ることの難しさ

 出かける直前、なぜか不機嫌になってしまった子ども。さっきまで楽しそうにしていたのに、理由がまったくわかりません。「どうしたの?」と聞いても答えず、時間だけが過ぎていきます。「早く出かけなければ」という焦りの中で、「もう3歳なのに」と落胆し、つい「いい加減にしなさい!」と強い言葉をぶつけてしまう。そして後から、「またやってしまった」と自己嫌悪に陥る。自分の感情を言語化することがまだできない幼児の場合、周囲が「推測する」「わかろうとする」ことが大切です。しかし、推測する側にも感情があります。そして、その感情が、ときに子どもに寄り添うことを難しくしてしまうのです。

子どもの気持ち わからない 江藤真規

「無意識の思い込み」とは

「ピンクの服を選ぶのは女の子」
「単身赴任をするのは男性だ」
私たちは、何かを見たり聞いたりした時に、実際にはそうでなかったとしても、またそうであったとしても、無意識に「きっとこうだ」と思い込むことがあります。このことを「無意識の思い込み」と言います(注)
無意識の思い込みは、認知バイアスの一種であり、誰にでもありうるもの。背景には、過去に見聞きしたことや、経験してきたことがあるそうです。無意識の思い込みは、決して悪いものではないのですが、それに気づかずにいると、ネガティブな影響が起きてしまうこともあります。
「この子は勉強が嫌いだ」
「この子は頑固だ」
例えば、こうした決めつけも、無意識の思い込みの一つですが、言われた子どもはどう感じるでしょう。また、「5歳なら普通はひらがなが書ける」と思い込んでいると、書けない子どもに対して、「できない自分はダメだ」という感覚を抱かせてしまうかもしれません。  
子どもの可能性を狭めないためにも、「自分には思い込みがあるかもしれない」という視点を持つことが大切です。

よくある認知バイアス例

ここでは、日常の中で起こりやすい認知バイアスをいくつか紹介します。「自分にもあるかもしれない」と気づくことが、影響を和らげる第一歩になります。

  • ステレオタイプ:ある属性に対する先入観や固定観念で、「みんなそうだ」と思い込む傾向
  • 正常性バイアス:警告のシグナルを軽んじ、「このくらい問題ない」「自分は大丈夫」と思い込む傾向
  • 確証バイアス:自分の考えを支持する情報や、自分が期待する情報だけを集めたくなる傾向
  • 権威バイアス:権威があると思える人の言動に対して、「従ったほうがいい」と思い込む傾向
  • 同調バイアス:「周りに合わせたほうがいい」など、周りの言動にあわせたくなる傾向
  • サンクコスト効果:費やしたお金や労力、時間にとらわれて、「継続したほうがいい」と思い込む傾向
  • 現状維持バイアス:「このままがいい」「このままでいい」など、現状維持を好み、変化を避けたくなる傾向

「子どもの気持ちの理解」に近づくための5つの工夫

子どもの気持ち わからない 江藤真規

幼児期は、人生の土台がつくられる大切な時期です。子どもが安心して成長できる環境を整えるためにも、気持ちの理解は欠かせません。ここでは、子どもの気持ちに近づくための具体的な工夫を5つ紹介します。

1. 事実と解釈を分ける

「ほら、また遊んでいるから牛乳こぼした!」、よくある日常の一コマです。しかし、子どもは本当に「遊んでいたから」こぼしてしまったのでしょうか。実際には、パンを取ろうとした際に、たまたま手が当たってしまっただけかもしれません。最初から、不安定な場所に牛乳が置かれていたのかもしれません。
事実は「牛乳がこぼれた」ということだけ。そこに「遊んでいたから」という解釈を加えているのは大人の側です。事実と解釈を分けて考えることで、子どもの状況をより正確に捉え、気持ちに近づくことができるようになります。

2. 表情や態度を読み取る

「遊びたくない」と言ったあとに、「やっぱり遊びたい」と言い出す子ども。そんな姿に戸惑うこともあるでしょう。しかし、子どもは嘘をついているわけではありません。そのときどきの気持ちや状況によって、言葉と本心がずれることは珍しくないのです。
だからこそ、表情や態度など、言葉以外にも意識を向けることが大切です。言葉の裏側にはどのような思いがあるのか、子どもから発せられるサインを手がかりに、汲み取っていきましょう。
その前に喧嘩をしてしまったことが気になり、自分から「遊びたい」と言えなかったのかもしれません。取り組んでいたパズルが、もう少しで完成するタイミングだったゆえに、「今は」遊びたくないという意味だったのかもしれません。言葉のみに頼らず、子どもの本当の気持ちを推測してみてください。

3. 決めつけや押し付けの言葉を減らす

「この子はおとなしい」「すぐに泣く」と子どもにレッテルをはったり、「普通は〇〇だ」「みんな〇〇だ」と、無意識に子どもの枠を決めてしまうことはありませんか。「〇〇しなければならない」「〇〇できないとダメだ」など、大人の考えを押し付けてしまうこともあるかもしれません
しかし、このように言われてしまうと、子どもは本当の気持ちを表現しにくくなってしまいます。結果、子どもの気持ちの理解から、どんどん離れていってしまいます。
子どもの真の気持ちを聞くために、できるだけ「決めつけや押し付けの言葉」を減らしてみませんか。子どもが安心して心の内を表現できる環境に近づけます。

4. 実際に聞いてみる

子どもは語彙も少なく、論理立った説明も得意ではありません。それでも、「どうせわからないだろう」と、子どもが話す機会を奪ってしまうと、自分の気持ちを伝える力は育ちにくくなります。たどたどしくても大丈夫。ゆっくり待ちながら、子どもが話す時間を大切にしましょう。
子どもの気持ちに近づくためには、「あなたはどうしたい?」といった質問が役立ちます。「わからない」と返ってくる場合には、「AとBと、どちらがいい?」と選択肢を与えることがおすすめです。
一方で、質問の仕方によっては、かえって子どもが心を閉ざしてしまうことも。例えば、「どうして泣いてしまったの?」という質問では、責められていると感じさせてしまいますが、「何があったか教えてくれるかな?」と聞けば、子どもは自分の状況を話しやすくなります。

5. 複数の眼差しで見る

保育園からの帰り道、道端に座り込んでしまった子どもがいたとします。「疲れてしまった」「そこに咲いている花が気になった」「保育園の友達が帰ってくるのを待っている」。座り込むという一つの行動の背景には、さまざまな子どもの気持ちが推測されます。
子どもの気持ちに近づくためには、自分以外の人の見方も参考にすることがおすすめです。例えば、「弟のおもちゃを取ってしまった」と見えていた行為が、「危ないから外してあげたんじゃない?」という意見に触れることで、「意地悪ではなく、優しい気持ちの表れだった」と異なる見方になります。
そこで重要なのが、仲間を作ること。同じ立場の親同士がつながることで、子どもに対して、自分自身に対して、視野を広げることができるようになります

子どもの気持ちは、すぐに理解できるものではありません。だからこそ、「わかろうとし続けること」が何より大切です。思い込みに気づき、少しずつ見方を広げていく。その積み重ねが子どもとの関係をより豊かなものにしていくのだと感じます。

(注)
アンコンシャスバイアス研究所HP
https://www.unconsciousbias-lab.org/unconscious-bias/

(参考)
守屋智敬(著)『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』かんき出版、2019

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