
安心感の上に挑戦心を育む~「やってみよう」を生み出す自尊感情~
幼児期にこそやるべき6つのこと
幼児教育とコーチングのプロの江藤真規先生が、「幼児期にこそ家庭でやるべき6のこと」を伝授。明日からの子育てが変わります!
目次
「自信を持って挑戦できる子になってほしい」
多くの親御さんが、こんな願いを持って子育てをしています。けれど、その思いが強くなるほど、いつの間にか、「できること」や「失敗しないこと」を求めすぎてしまうことがあります。
「自分でできるでしょ?」
「ほら、みんなもうできているよ」
思うような結果にならないと、こんな言葉もつい口にしてしまいます。
「早くしなさい」
「どうしてできないの?」
これでは、かえって自信を失う方向に向かってしまいます。
子どもの「頑張る力」を支えるのは、評価や結果より先にある、「あなたはあなたのままで大丈夫」という安心感。子どもの「やってみよう」という挑戦心は、安心という土台の上に成り立っているのです。
今回は、自尊感情をキーワードにしながら、幼児期に育みたい「やってみよう」と思える気持ちについて考えていきます。

江藤 真規 先生
幼児教育とコーチングのエキスパート。
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。IPU・環太平洋大学 特命教授。アカデミックコーチング学会理事。
幼児教育のエキスパートとして、幼児教室の運営と保育士指導を行うとともに、教育コーチングオフィス サイタコーディネーション代表として、保護者や教職員を対象とした講演・セミナー、執筆活動などを行っている。子どもの主体性と思考力・表現力を育む家庭環境作りにも定評がある。
「できる子」より先に大切なもの
子どもは、親の気持ちを、とても敏感に感じ取っています。ちょっとした言葉かけから、
「失敗したら怒られるかもしれない」
「できない自分はダメなのかもしれない」
こんな気持ちを強くしてしまうと、「やってみよう」よりも、「失敗しないこと」を優先するようになります。
子どもが挑戦できるかどうかは、能力だけで決まるわけではありません。その背景には、心の土台としての「安心感」が必要なのです。
「できなくても大丈夫」
「失敗しても受け止めてもらえる」
その土台があることで、子どもは安心して新しいことに挑戦し、失敗しても、また立ち上がることができるようになっていきます。
自尊感情という土台
自尊感情(self-esteem)とは、「自分には価値があると思える感覚」のこと。単なる「自信」とは少し異なります。そして、この自尊感情には、二つの側面があると言われています。(注)
一つは、「人よりできる」「褒められる」といった、比較や評価によって高まる「社会的自尊感情」。
もう一つは、「できても、できなくても、自分は大切な存在だ」と感じられる「基本的自尊感情」。
特に大切なのは、土台となる「基本的自尊感情」です。この土台があることで、子どもは失敗しても自分を否定しすぎず、「またやってみよう」と挑戦することができるようになります。
一方、「すごい自分」ばかりを求め続けると、他人との比較に振り回されやすくなってしまうことがあるようです。
子どもが失敗した時こそ、「頑張っている姿を見ていたよ」と大きな愛情で包み、ありのままの子どもを受け入れてあげましょう。これは、なんでも肯定する「甘やかし」ではありません。「やってみよう」の土台には、「やってみても大丈夫」「困ったら戻ってこられる」という安心感が必要なのです。

子どもの自尊感情を下げてしまう関わり
自尊感情は、毎日の何気ない言葉や関わりの中で、育まれていきます。「こうすれば育つ」といった方法論があるわけではなく、毎日の積み重ねで、少しずつ育まれていきます。
ところが、子どもを思っての関わりでも、知らず知らずのうちに自尊感情を下げてしまうことがあります。「この子が困らないようにしてあげたい」、そんな愛情や心配から出る言葉であっても、子どもの自尊感情を揺らしてしまうことがあるのです。
例えば下記のようなことに注意しましょう。
- 「○○ちゃんはもうできているよ」と、他の子との比較を繰り返し聞いていると、子どもは次第に、「できない自分はダメなんだ」と思ってしまいます。
- 失敗を避けさせようとして、親が先回りしすぎる関わりにも注意が必要です。例えば、子どもが靴を履こうとしている時に、時間がかかるからとすぐ手伝ってしまう。工作でうまくできない時に、「こうした方がいいよ」と先に答えを教えてしまう。確かに、その場ではうまくいくのかもしれませんが、子どもは「自分にはできない」という感覚を持ちやすくなります。
- できた時だけ大きくほめるのも要注意です。「うまくできた時だけ認めてもらえる」という「条件付きの安心感」になってしまうからです。失敗を恐れ、うまくできない自分を否定するようになってしまいます。
子どもの「やってみよう!」を育てる言葉かけ
子どもの「やってみよう」という気持ちは、「失敗しても大丈夫」「困った時には助けてもらえる」、そんな安心感の積み重ねの中で、少しずつ育っていくものです。
そのためには、結果だけではなく、子どもの気持ちや過程に目を向けることが大切です。
例えば、下記のような関わりは、子どもに、「自分でやってみても大丈夫」という感覚を育てます。
- 結果より過程を見て言葉にする
- 子どもの気持ちを受け止め、言葉にする
- すぐ答えを教えるのではなく、子どもに聞いてみる
- 不要な心配や先回りを減らす
- 小さな「できた」を積み重ねる
- 子ども自身が決める経験を増やす
「つい言ってしまう言葉」から、「やってみよう」を支える言葉への変換
日々の生活の中で、つい言ってしまいがちな言葉を、子どもの「やってみよう」を支える言葉に言い換える、「言い換え言葉」をご紹介します。ほんの少し言葉を変えるだけでも、子どもが受け取る安心感が変わっていくかもしれません。
| つい言ってしまう言葉 ![]() | 「やってみよう」を支える言葉 ![]() |
| 「なんでできないの?」 | 「難しかったね」 |
| 「早くして!」 | 「何か手伝える?」 |
| 「ちゃんとやって!」 | 「どうしたらできそうかな?」 |
| 「失敗しないでね」 | 「やってみようか」 |
| 「○○ちゃんはできているよ」 | 「前よりできるようになったね」 |
| 「だから言ったでしょ」 | 「次はどうしたらよさそう?」 |
| 「上手にできたね」 | 「頑張っていたね」 |
| 「お母さんがやってあげるね」 | 「自分でやってみる? 一緒にやる?」 |
| できたときだけ… 「すごいね」「えらいね」 | できていないときも… 「やろうとしていたのを見ていたよ」 |
| 「これをやらないとおやつなしね」 | 「終わったら一緒におやつにしようか」 |
親自身の自尊感情にも目を向ける
子どもを大切に思えば思うほど、親は一生懸命になるものです。
「この子のために何かしてあげたい」
「困らないように育てたい」
そんな気持ちから、自分のことを後回しにして、必死に頑張っている親御さんは少なくないことでしょう。
「ちゃんと育てなければ」
「失敗させてはいけない」
そこに、このような責任感が重なると、いつの間にか、「子どもを幸せにできるかどうかは、私次第なんだ」と、一人で大きな重荷を背負ってしまいます。
しかし、本当に子どもが求めているのは、何でも完璧にできる親なのでしょうか。きっと子どもが一番安心するのは、うまくいかない日があっても、迷うことがあっても、時には弱さを見せながらも、「大丈夫、一緒に考えよう」と言ってくれる親の姿なのだと思います。
困った時には助けを求め、失敗したら「やり直せばいいか」と笑える。そんなふうに、自分自身を責めすぎずに生きている親の姿は、子どもにとって、「失敗しても大丈夫」という安心感そのものになるはずです。
子どもは、完璧な親を求めているわけではありません。世界でたった一人の、「あなた」を求めているのです。だからこそ、親自身も、「私は私のままで大丈夫」と思えることが大切なのでしょう。
親子の関係は、「してあげる」「してもらう」だけの関係ではありません。親もまた、子どもに育てられながら、少しずつ親になっていく存在です。子どもが安心できる場所をつくろうと試行錯誤するその時間は、きっと同時に、親自身の心を育てる時間にもなっているはずです。

(注)近藤卓(2020)『誰も気づかなかった子育て心理学:基本的自尊感情を育む』金子書房
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