子育てに効く!脳コラム10選 ~ ❽“たまの手抜き”で報酬効果アップ
篠原菊紀先生の脳コラム
“たまの手抜き”で報酬効果アップ
今回は、達成感や快いと感じたときの脳活動のお話です。ある実験結果をもとに、どんなふうに子どもと接するといいかのポイントをお伝えします。
前向きな社会的交流は快感であるものの…
お母さんの笑顔を見ると、お子さんの脳内では、ドーパミン報酬系が活性化します。
ドーパミン報酬系は、おいしいものを食べたり、好きな誰かのことを思い浮かべたり、ほめられたり、問題がうまく解けたり、さかあがりができたりと、達成感や快感を感じたときに活性化します。そして記憶効率を高めたり、スキルが身につくのを早めたりします。
人とのかかわりも、このドーパミン報酬系を活性化させます。笑顔の他、楽しげに話しているなど前向きな社会的交流に関連した画像をみせると、活性化するのです。
だから、『子どもには笑顔で接しましょう。プラスの社会的刺激だけを与えて育てれば、いい子に育つに違いない。』そう思ったりしますが、どうもそうではないらしい。「いつも」「年中」よりは「たまに」がよく、それがさらにドーパミン報酬系の活動を高めるのです。
社会的交流を短期的に断つと、強い活性化が生まれる
マウスも社会的交流でドーパミン報酬系が活性化します。そして、おもしろいことに、短時間、集団から引き離し孤独にさせると、その後の社会的交流時にドーパミン報酬系の反応がより強化されることが示されています。
マサチューセッツ工科大学のLivia Tomovaらは、このマウスでのドーパミン報酬系の反応が人でも起きるのかを調べました。まず、実験に参加する40人を対面やオンラインでの社会的交流から10時間隔離しました。また、10時間の絶食も体験してもらいました。
そして、隔離や絶食後、社会的交流、食物、花の画像を見せ、そのときの脳活動を調べました。同時に、孤独感、食物への渇望、社会性への渇望について、その度合いを自己申告してもらいました。
その結果、社会的交流からの隔離後には社会性への渇望が増し、絶食後には食物への渇望が増しました。ドーパミン報酬系は、社会的交流からの隔離後には社会的交流の画像に対して、絶食後には食物の画像に対して、強い活性化が見られたそうです。
これらのドーパミン報酬系の活動について、どのくらい似ているかを検討したところ、社会的交流からの隔離後に社会的交流の画像を見たときと、絶食後の食物の画像に対する脳の反応は互いに類似していましたが、花の画像に対する反応はあまり似ていなかったそうです。短期的な社会的隔離は、絶食が食物への渇望を引き起こすのと類似して、社会性への渇望を引き起こすわけです。
笑顔やほめるの“報酬”はたまの手抜きが正しい
まじめなお母さんは、「ほめて伸ばそう」などといわれると、ひたすらほめ、機嫌悪く対応したときなどは自己嫌悪に陥ったりします。
しかし、Tomovaたちの研究は、「ひたすらほめる」「ひたすら笑顔」「いつも正しく」はあまりうまくないことを示しています。別の実験で、ドーパミン報酬系は50~75%の頻度で報酬を与えるときに最も活性化することが知られています。
報酬はときどき抜けていいのです。ほめられたいという気持ち(渇望)を生かすには、むしろときどき抜けるべきで、「ほめる」「笑顔」を基本としつつも、ときに「叱り」、ときに「ぶすっ」が、より報酬効果を高めるのです。
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篠原 菊紀(しのはら きくのり)先生
公立諏訪東京理科大学 情報応用工学科教授(脳科学、健康科学)。東京大学、同大学院教育学研究科修了。『頭がいい子を育てる8つのあそびと5つの習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。『子どもが勉強にハマる脳の作り方』(フォレスト出版)など著書多数。NHK夏休みこども科学電話相談など、TV、ラジオ、雑誌でもご活躍。
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