❶脳の根っこを育むとは? ~幼児期に効く! 脳コラム5選

❶脳の根っこを育むとは? ~幼児期に効く! 脳コラム5選

篠原菊紀先生の脳コラム

子どもの脳の発達には、共振=共同の行動がとても重要です。その際、おうちのかたは子どもに起こっていることを感じとりましょう


脳の根っこを育むとは?

子どもの脳を育むためには、どうしたらいいのか、今回はインタビュー形式でお答えします。

  1. ―――近年、Aという食品はBにいい、というように、健康や体に関する一対一対応の情報があふれています。脳についても、そんな情報を求める人がいるようですが、そんな単純なことではないように思うのですが。
  1. ―――以前、子育て中の保護者のかたからこんな質問がありました。

    「毎日忙しくしていて、篠原先生がおっしゃっていた『自伝的記憶の共有』ができていないと反省したけど、なかなか難しい。買い物帰りに一緒に夕日を見るというのではダメですか?」

     これについては、いかがでしょうか。

※「自伝的記憶の共有」とは…子どもが育っていく中で親子で一緒に何かをしたという経験

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 それで全然OKです。一緒に夕日を見ようという試みだけでもOKです。

というのは、共振(コ・レギュレーション:二者の間に生じる共同的な調整行動)が、発達にはとても重要だから。

 親子がお互いにある働きかけをして、それで変動が起こって、たまにはそれがうまくいかないことがあっても、その修復をして、というプロセスを共有しておいてほしいという意味だと思っていればいいんですね。
 そこが抜けてしまうと、いくらコミュニケーションスキルを教育しても追いつかない部分が出てきます。だから、先ほどの質問に戻れば、夕日を親子で一緒に眺めるだけでも充分過ぎるほど充分です。

 強いて言うなら、そのときに体のどこかをふれ合ってほしい。そうすると、言葉の世界での共有とか、視界の世界での共有だけじゃなくて、触覚の共有だとか、あるいはもっと、神経系統の交感神経や副交感神経、迷走神経だとか、そういうところの共有・共振が出てくるかもしれません。そして、そこが発達上本質的である可能性がありますから。

 そういう無意識的な部分で親子が融合するみたいな感覚、親子でなくても他者とのそういう感覚を、小さいころにちゃんと体験していないといけないのではないか、という話が発達の研究で言われています。

  1. ―――そうした共有をするには、親子で一緒にいるだけでいいのでしょうか。


 ただ一緒にいるだけでもいいけれど、たとえばふとんの上でごろごろ転がるあそび(仮に「いもむしごろごろと呼びましょう」)をするとします。「いもむしごろごろ」と言いながら、一緒にそれだけをやってもいいんですが、やっているうちに子どもがおうちのかたの上に乗っかるとします。

 そのときに、おうちのかたが子どものそのレギュレーションの変化みたいなものを感じとって、合わせ技をかけて、「いもむしごろごろ」を始めたんだけれど、結果はなぜか馬跳びになっていたみたいなところが、すごく重要なんですね。

 ただ、そのときに気をつけなければいけないのは、子どものスパークだけに合わせるというやり方は、基本的にとらないほうがいい。親御さんがリードして、それも意図的にやらせるということではなく、リードしていくという形をとらないと、子どもは楽しさにかまけて動くだけで、なかなか次のステップにつながっていきませんから。お互いの変化を楽しんでいくんだけれど、そこは、親が方向性みたいなものをつくっていく

  1. ―――親のリードというのは、「いもむしごろごろ」の例で言えば、子どもが親の上に乗ってあそび始めたとき、親が何気なくふっと馬のポーズになってみるというようなことですね。ちょっと舵をとるみたいな感じでしょうか。


 そうそう。舵をとりきらなくてもいいんですが、最初の舵切りは親であるほうがいいと思います。

 子どもにまかせきってしまった場合、なんていうかな、脳を育てていくという方向じゃなく、「楽しく興奮しました。以上終わり」ということにどうしてもなっていくので。うまく共振するということと、子どものペースだけに合わせないということの二つが大切です。

  1. ―――親子で何かをやるということでいえば、一緒に料理を作るとか、お手伝いをさせるということでもいいのでしょうか。

 それで充分です。ただ、そのときにおうちのかたにお願いしたいのは、自分に起こっていることを感じるのと同じように、子どもに起こっていることを感じとってもらいたい、共振してもらいたいということです。

 そうでないと、お料理をするために一緒にいるという、仕事的、道具的な関係になってしまいます。そうではなくて、共感的コミュニケーションのためにやるんですから。

 ちょっと離れたところから自分の体の反応をながめる感覚で見ていただくと、料理をするときには最初こう構えるとか、自分の体側や心側でどういうことが起こっているのか、言葉に表すことはできないけれど、なんとなくわかりますよね。そういう感覚で子どもを見てほしい。

 おうちのかたがそういうことができれば、子どものほうもそうできやすくなってきて、それが成長の非常に大きな要素なんです。そこが遮断されると、どうしても他者を道具としてしか扱えなくなって、それは結構不幸なことだし、かわいそうだと思います。

 まあ、おうちのかたは自然にできてることだと思いますし、子どもも知らない間にできるようになっていくはずの部分ですが、今は少し危うくなりかけているので、ちょっとまじめに意識してもらえるといいですね。

  1. ―――「共振」という感覚がつかめそうでつかめないのですが。
  1. ―――相手とつながっているような感覚をお互いに感じとれる体験を、小さいときにたくさんしていることが大切なんですね。相手は親が一番多いでしょうが、他の人ともあることでしょうね。

そのとおりです。
 今の子どもは、ふだん会う人の数が少なくなっていますよね。たとえば昔は、家に帰ってからも6人の友だちに会って、そのうちの誰かの家に行ってその親に会ってとか、それを3日間で考えたら結構な数になりますが、今は親だけとか、多くても友だち1人か2人で。

 子どもが出会う表情や感情の強弱、あるいは体の動かし方といったことの数やバリエーションを考えると、その差は大きいと思うんですよ。だから、全部補えるかどうかわかりませんが、おうちのかたは少し意識的に、人と一緒にいるとき何かを感じとったり、他者の何かに共振できる体験を濃くしてあげてほしいですね。

  • 爬虫類脳というのは、爬虫類でも共通に持っているような脳幹や視床下部を中心とする部位で、そこは生きるために必要なこと、食欲の統制や怒りの統制などをやっています。
  • 爬虫類脳の上には旧哺乳類脳があって、そこには扁桃体と海馬を含む辺縁系があり、扁桃体は好き嫌いを、海馬は記憶をするところです。象徴的に言えば、旧哺乳類脳は愛とその記憶をしている(笑)。それが爬虫類脳を囲って初めて、哺乳関係というのが生まれてくる。おっぱいをあげたり、共有関係ができる。だから、共振の根っこもたぶんここです。
  • 旧哺乳類脳の上に大脳新皮質を含む新哺乳類脳がある、というのが人の脳だというのです。
  1. ―――脳も、まず根っこがちゃんと育つことが重要だとよくわかりました。最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。


 子どもと目線を合わせて、「○○~ ♥」と名前を呼んで、ついでに肩とか、どこか肌をふれ合う形で、「ゆ~れて~」と体をゆらゆらさせるみたいなことをしましょう。そういう雰囲気の延長で学習もしてもらいたいですね。
目線共有と、情動を共有するというのと、身体感覚を共有する、それがゆったりゆらゆらみたいな感じになる状態ですね。

 そのための道具として『幼児ポピー』も使ってほしいし、極端に言えば、その感覚を育むために、ここしばらくの日常生活があると思ってもらってもいいくらいです。


篠原 菊紀(しのはら きくのり)先生

篠原 菊紀(しのはら きくのり)先生

公立諏訪東京理科大学 情報応用工学科教授(脳科学、健康科学)。東京大学、同大学院教育学研究科修了。『頭がいい子を育てる8つのあそびと5つの習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。『子どもが勉強にハマる脳の作り方』(フォレスト出版)など著書多数。NHK夏休みこども科学電話相談など、TV、ラジオ、雑誌でもご活躍。

「ポピフル」は月刊ポピー、全日本家庭教育研究会がお届けしている教育情報サイトです。

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