❷ 大切なのは「好きになること」 ~幼児期に効く! 脳コラム5選

❷ 大切なのは「好きになること」 ~幼児期に効く! 脳コラム5選

篠原菊紀先生の脳コラム

幼児期に大切なことは何か。親子一緒にやることで、子どもは頭を使い、体を動かし、人とかかわるのが好きになります。


大切なのは「好きになること」

幼児期に大切なことは何か、改めて、基本となるお話です。

 頭をしっかり使うこと、体をしっかり動かすこと、人とのコミュニケーションは、生涯に渡って必要になることですよね。年をとってからの認知症予防まで考えると、この3つを好きになることはとても重要です。

 『幼児ポピー』はそれを主軸に考えて、親子で一緒に読んだり、感じ合ったり、同じものを見つめる機会を提供したり、また、それを使って散歩してみよう、まわりを観察してみようという試みも行っています。

 親子でそうしていると、オキシトシンという愛着や愛情に関係するホルモンが分泌されます。
 おうちのかたにだっこされたり、声を聞いたりすると分泌しやすいことが知られている脳内物質ですが、これがドーパミン(快感ややる気に関係する脳内物質)の分泌を促進したり、その働きを強めたりするので、親子で一緒に頭を使い、体を動かすことが、頭を使うこと、体を動かすこと、人とかかわることが、好きになっていく基礎になるんですね。

 もう一つ、好きになっていく基本は、コンテンツそのものが楽しい、遊び的要素をたくさん含んだものであることです。

 幼児期の脳活動では、遊ぶことと学習することは区別されないので、遊びの中で楽しいと思いながら頭の使い方を覚えていくことが大切になります。
 それも、自主的、自発的にやったほうが効果が大きいでしょう。「~しなさい」「~しちゃダメ」という命令形では、扁桃体(へんとうたい)という恐怖反応に関係する部位が活動しやすく、自主的に何かをやって楽しいときは、線条体(せんじょうたい)という行動と快感をマッチングさせる場所の活動が高まります。

 そして線条体が活動を高めるということがやる気の根っこなのです。

 「いいことをしたらほめる」を何度も何度もくり返すと、線条体で行動と快感が結びついて、「いいことしようかな」とちょっと思っただけで、線条体の活動が予測的に高まるということが起きます。これがやる気の正体です。ですから、頭を使うこと、体を動かすことが好きになるためには、コンテンツそのものが楽しく、それをするとうまく達成感がえられるようになっていることが大切なのです。

 また、線条体でドーパミンが働くと、パフォーマンスが急速に上がることが知られています。楽しくやる気をもってやるとリハビリ効果が高いことが知られていますが、楽しくやったほうが何事もスムーズにスピーディに身につくのです。ですから、幼児期にその根っこを作っておくことは大切ですね。小学校中学年くらいになって勉強をやらされる状況になったときでも、なぜか楽しくできちゃう、そうなってほしいですよね。

 「~しちゃダメ」を言うなというわけではありません。「飛び出しちゃダメ!」など、必要なときはきちんと言ってください。

 扁桃体がはたらく禁止系の命令は、一発で学習できるし、よく効くようにできています。生き物にとって、いいえさがよくとれる場所を覚えることは大切ですね。けれども、そこへ行く途中で敵に襲われそうになったとしたら、それは生き物にとってより重要なことで、しっかり強く覚えるように生き物の脳はできています。

 進化の過程から禁止の命令は強く効くからこそ、(いいことをしたらほめるときのように)こまめに叱ったらダメなわけです。

 叱ることは大切ですが、効きすぎるので、望ましい行動をほめるということとセットで考える必要があります。
 一度叱ったら3倍ほめる。叱るとほめるの比率を1対3にするとバランスがとれるということが、神経経済学という学問の研究で実証されています。それにちょいほめがお得なこともわかっています。ですから「ちゃんと手が洗えたじゃん」なんていうことでもいいので、ちょこっとしたことをこまめにほめてください。

 小学校に上がれば、みんな嫌でもネガティブな評価にもさらされます。だからその前に、頭を使うことや体を動かすことが好きになる、少なくとも嫌ではないようにしておくことが大切なんですね。

1つ叱ったら…
3倍ほめる!!

篠原 菊紀(しのはら きくのり)先生

篠原 菊紀(しのはら きくのり)先生

公立諏訪東京理科大学 情報応用工学科教授(脳科学、健康科学)。東京大学、同大学院教育学研究科修了。『頭がいい子を育てる8つのあそびと5つの習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。『子どもが勉強にハマる脳の作り方』(フォレスト出版)など著書多数。NHK夏休みこども科学電話相談など、TV、ラジオ、雑誌でもご活躍。

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