前号までのあらすじ
ピクニックに行った帰り道、偶然見つけた廃墟と化したテーマパークの中に、ダイくんが入っていってしまう。そこには、中型犬くらいの大きさの恐竜がいたのだった。
ダイくんは、壊れてところどころひび割れたガラスケースの中にいる、自分とそっくりな姿をした恐竜のまわりをうろちょろしていた。しばらくは名前を呼んでも、まったく聞こえていない様子だった。日本語でも英語でもない、なんとも言えない小さな声で、ケースの中の恐竜に必死に話しかけているように見えた。
直也がダイくんの様子がおかしいって言ったのは、このことか。いったい、どうしちゃったんだろう?
「誰かいませんか?」
おばあちゃんがそう言って、携帯電話の明かりをゆっくりと動かす。返事はない。建物の中には、壊れたガラスケースがいくつかと、その中にやはり中型犬くらいの大きさの恐竜が三体いるのがわかった。
「これ、まさか生きてるわけじゃないよな」
直也が言いながら、ステゴサウルスのほうへ近寄っていって、そっと背中の板のような部分に触れた。そして、
「作り物だけど、なんていうか、すげぇリアルだ」
と、ため息をついた。わたしも気になって、おそるおそる近づいてみた。
本当だ。
恐竜の模型は何度も見たことがあるけど、ここにいるのは筋肉のつき方とか、皮膚の質感がリアルなだけでなく、さっきまでそこを歩き回っていたかのような躍動感があった。
「二人とも、戻ってらっしゃい」
おばあちゃんの声にふり返ると、ダイくんはおとなしく、おばあちゃんの手の中にいた。
「ダイくん、大丈夫?」
かけよってのぞきこむと、ダイくんはとてもさみしそうな顔をしていた。
「ぼく、しってるかんじがしたの。でも、いくらよんでもへんじがないの…」
「なつかしい気持ちになったってことじゃないか?」
と、直也が言った。そうかもしれない。ダイくんが話しかけていた恐竜は、本来の大きさに比べたらはるかに小さいけれど、ダイくんと同じアパトサウルスの仲間に違いなさそうだった。かつて一緒に暮らしていた家族を思い出して、なつかしくなったのかもしれない。
「ダイくん、これはね、本物によく似た作り物で、わたしたちみたいに生きてはいないんだよ。だから話しかけても返事がないの」
わたしがそう言うと、ダイくんはしょんぼりした様子でおばあちゃんの手の中へ顔をうずめた。
直也はもっと中を調べてみたいようだったけど、外が暗くなりはじめたので、わたしたちは「キョウリュウパーク」を後にした。
家に着いてからも、ダイくんは元気がなかった。わたしはなんて言葉をかけていいかわからず、夕食後はダイくんが眠りにつくまで、そばで絵本を読んであげた。
次の日。
教室に着いたとたん、直也に数枚の紙を渡された。
「何?」
「キョウリュウパークのこと、気になってネットで調べてみたんだ。公式のホームページはとっくになくなってたけど、行ったことがある人の記事とかが残ってたから、プリントしてきたよ」
「ありがとう!」
記事には、主にこんな内容が書かれていた。
キョウリュウパークが、今から二十年ほど前にできたテーマパークであったこと。恐竜をメインにした施設でありながら、恐竜の模型が非常に小さく、中型犬くらいの大きさでしかなかったため、子どもたちからの人気が今ひとつだったこと。車でないと行けない場所にあることや、施設自体が小規模なものだったため、来客数が少なかったこと。しかし、恐竜の模型は小さいながらもリアルで躍動感に満ちていたため、一部のマニアの中では注目を集めていたこと……など。
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