

前号までのあらすじ
石に空想を搾取されることになった空志は、小説家を目指す春日部の存在を気にしている。ある放課後、誰もが静止するはずの石の出現時に、なぜか春日部だけが動いていた。
なぜ、春日部が……。みんなが色を失い、静止しているこの世界で、なぜ春日部だけがぼくと同じように動いているのか。
混乱するぼくの目の前に、やっと石が現れた。
――何をぼんやりしている。新たな答えが浮かんだんだろ。さあ、第四の質問……
「ちょっと待て」
――何事だ?
「さっき、ひとつだけ、動く人影を見たんだ。それってどういうことだ?」
――おいおい、質問するのはこっちの仕事だ。
「春日部っていう、女子だ。あいつも空想を搾取されているのか?」
――そんなことはおまえに関係ない。
石の背後を見まわしてみても、すでに春日部の姿はなかった。いったい、どういうことだ?
――おまえ、自分の立場をわかっているのか? 空想を搾取できなければ、想像力を奪われるんだぞ?
「わかってるよ」
――ならいい。それでは第四の質問。
『雷はどうやってできるか?』
「まずは、人々のネガティブな感情が心の中で黒く渦巻く。人の心には自己防衛装置があって、渦がある程度の大きさになると、装置が作動し、渦を外へ押し出そうとする。外へ出された渦は、あちこちで共鳴しあって大きな塊となり、やがて空を覆いつくす。これが雨雲の正体だ。雲の中では、いろんな人々のさまざまな感情がぶつかりあって、ゴロゴロゴロゴロと不満そうな音を立てる。これは、文句を言いたかったけど、言えなかった人々の心の声だ。外に出せずにおさえこんだ怒りが、やがてピリピリとした電流を起こす。この電流が、いなずまとなるんだ。そして、とうとう大爆発する。すると、そのショックで空のスクリーンはギザギザに破れてしまう。これが、雷が起こるしくみさ。その後は、空の職人や双子の巨人たちが大慌てで、あらかじめ用意しておいたスクリーンに取り換える」
――なるほど。いいだろう。
石は一瞬キラリと光り、その表面には今ぼくが話した内容が文字となって浮かんだ。そして、それはいつも通りあっという間に消え、石は
――また会おう。
とだけ言い残し、去ってしまった。
気がつくと、景色はすでに色も動きも取り戻していて、ありきたりな放課後の光景が広がっていた。ぼくは無意識のうちに、春日部の姿を探したが、見つけることができなかった。
再び松崎に呼び出され、案の定、将来就きたい職業について、ねちねちと聞かれた。一刻も早く解放されたくて、
「教師には、興味があります」
と答えた。もちろん、嘘っぱちだ。
「だったらおまえ、もっと人に興味持てよ」
松崎の答えに、ぼくは少し驚いた。
「おまえは一見、クラスの仲間やよく一緒にいる友達ともうまくやれているようだが、その中で本当に信用してるやつなんか、いるのか? その場その場で適当に合わせて、いつも自己完結してるように見えるんだが」
「そんなこと……」
「そういうやつは教師には向かんぞ。教師っていうのは、ただ勉強を教えてればいいってもんじゃないんだ。ひとりひとりの人間に興味を持って、積極的に関わり合っていくことができなきゃ難しいぞ」
進路指導室を後にして、廊下をひとり歩きながらも、松崎の言葉がのしかかっていた。別に、ぼくは本当に教師になりたいわけじゃない。しかも、いい先生だなんて爪のアカほども認めていない松崎からそんなことを言われたところで、説得力なんかありゃしない。
しない……はずなのに。なぜ、のしかかるんだ。つまり、それは図星だからか。ぼくはクラスメイトのことも、山ちゃんやマサルのことも嫌いじゃない。でも、多分、明日から突然会えなくなったとしても、ぼくにはあまり影響がない気がする。ぼくは冷たい人間なんだろうか。でも、おそらく二人にとっても、ぼくの存在の有無なんて、そんなに問題ではないだろう。そして、一番の問題は、こんなふうに考えるぼくなんだろうな。
通学路をとぼとぼと歩く。今日の空はきれいだ。ぼんやり歩いていると、前方の道の真ん中に、空を見上げて突っ立っている女子がいた。よく見なくても、それが春日部であることが、ぼくにはわかった。
「何してるの?」
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