前号までのあらすじ
奏太に誘われ、ベースを弾きたいと思うようになった奏。ところが母親に反対され、ベースを買ってもらえない。途方にくれていたら、中古楽器店がベースを貸すと言ってくれて…。
「あきれた……」
これがお母さんの第一声だった。走って家に帰り、息を切らしながら、中古楽器やさんのご夫妻に出会ったこと、お金が貯まるまでベースを貸してもらえることについて一気にまくしたてた。
そしたら、こんな反応だった。
「まあ、ちょっと落ち着いて。座りなさいよ」
そんな気分じゃなかったけど、言われるままソファに腰を下ろした。だけど、リラックスなんてできる状況じゃない。お母さんが何て言ったって、ベースは借りるつもりだ。もう決めている。もし、だめだって言われても、はっきり言うつもりだ。わたしは自分の家のソファで、あり得ないほどに身構えていた。
お母さんはいったんキッチンへ消えると、温かい紅茶の入ったマグカップを持って戻ってきて、わたしの前に置いた。立ちのぼる湯気が優しい。
「そんなにやりたいんだね、ベース」
「うん」
「めずらしいね。奏がそんなに何かを主張するなんて」
「そうかも」
「どうして、突然そうなったの?」
「自分でもよくわからないけど……」
わたしは世界一甘いんじゃないかと思える飲み物をすすりながら答えた。
「今まで、自分にはできないんだって思いこんでいたのかもしれない。いろんなこと。最初から、条件を満たしている人だけが、できるんだって」
「条件って?」
「たとえば、ピアノを弾けるようになるなら、家にピアノがあって、お母さんがピアノの先生で……とか。自分がそうじゃないなら、きっとできないんだって」
「そんなこと思ってたの」
「自分でも気づかなかったんだけど。でも、みんながみんなそんなわけないよね。やりたいことをやるために、足りないものがあるなら、自分で集めればいいんだって思ったの」
これは、自分で言ってからびっくりした。わたし、そんなことを思ってたんだ。今まで、なんとなくやりたいなと思うことがあっても、自分にはできない気がして、すぐにあきらめてきた。それは、自分で行動することで、もしかしたらできるようになったことだったのかもしれない。裏を返せば、そんなに本気でやりたいことに、出会えていなかったのかもしれない。
それに……。
あのとき、奏太に声をかけられなかったら、わたしは金輪際、楽器を弾きたいと思わなかっただろう。奏太が、ハルカが、わたしに勇気をくれたんだ。やりたいことのために自分ができることをする。すぐにあきらめないで、できる方法を考える。あの二人が、それを教えてくれたんだ。
なんだか胸が熱くなった。指の先まで、力が満ちているようだ。
「わかった」
続きは、当月号「ポピー・キーワード」を入れて、読もう
読もう
魔法使いのステージのストーリー
たかはし先生のメッセージ
井上先生のメッセージ