勉強に効く!脳コラム10選 ~ ❼ 目標達成には「報酬 ー(ひく) 罰金」がよろしいようです
篠原菊紀先生の脳コラム
目標達成には「報酬 ー(ひく) 罰金」がよろしいようです
夏に向けてダイエットに挑戦した方もいらっしゃるでしょうが、順調でしたか? 今回は、減量にまつわる実験結果を元に、目標達成のヒントをお話しします。
報酬の与え方の実験
2016年、米ペンシルベニア大のMitesh Patelらが興味深い報告をしました。運動の継続率を高めるのに、どういった報酬の与え方がいいのかを実験的に調べた研究です。ダイエットにも子育てにも役立ちそうなので紹介します。
実験はBMI 27以上の過体重または肥満の従業員281人を対象としたものです。ご存知のように、BMIはボディ・マス・インデックスといって肥満の指標です。体重(㎏)÷身長(m) ÷身長(m)、で計算され22が適正で寿命も長いとされています。 この太り気味の従業員に一日7000歩、13週続けてもらうことを目標に、どのように報酬を与えれば継続率が高まるのかを調べたのです。
報酬、報酬 ー(ひく) 罰、ギャンブル条件
従業員は以下の条件で振り分けられました。
①賞金群:目標を達成できた日には1.40ドル(約155円)がもらえる。一ヶ月で最大42ドル(約4660円)がもらえる。
②罰金群:まず一か月分の賞金42ドルがもらえる。しかし、そこから達成しなかった日には1.40ドルが差し引かれる。
③ギャンブル群:一ヶ月継続できたら賞金5ドル(約555円)または50ドル(約5550円)のくじ引きが行える。期待値(※)は42ドルになるようにする。
④対照群:報酬は受け取らず、万歩計の数字のフィードバックのみを受けとる。
※確率論の用語で、ある試行を行ったとき、その結果として得られる数値の平均値のこと。ギャンブルや宝くじなら、平均してどれくらい儲かるかの値。
結果、13週続いたかどうかの目標達成率は、対照群④で30%、賞金群①とギャンブル群③は35%で、賞金群、ギャンブル群の継続率が高かったものの、統計学的に計算すると、それは誤差の範囲の差で、①③④間に有意な(統計学的に意味のある)差は認められませんでした。
一方、②の罰金群(いったんもらった報酬から罰金を引かれる群)の目標達成率は45%と有意に高く、人数で言えば達成した人が50%多かったそうです。 行動経済学では損失忌避性といって、報酬より、損失のほうが心理的な影響が大きく、2~4倍は効果的であるといった知見(カーネマンの価値曲線)があり、その反映とも解釈できます。
できた未来を想像する
しかし、この方法は損失忌避性のみに重点を置く単なる罰金制ではありません。最初に報酬を与えることで、参加者に目標を達成したときのイメージが喚起されます。賞金を先に渡すことで、まだ起きていない未来を「すでに起こった出来事」のように思い浮かべさせる効果が期待できます。だから「報酬 ー(ひく)罰金」法は「うまい」。 ジムなどでの運動継続率を高めるのに、たとえば月額1万円を1万5千円と設定しておいて、ちゃんと通ったら5千円分割引、ただし、あらかじめ決めた通う回数より少なかったら、その分、割引を減ずるのもいい方法かもしれません。 あるいは子どもに勉強させるのに、テストで○○点取ったら○○買ってあげるより、事前にその額より少し多い額を透明な箱にでも入れて小銭で渡し、ちゃんと勉強しなかった日は抜いていくというのもありかもしれないですね。 もっともそれでも継続率は45%ですから、更なる工夫が必要ですが、報酬と罰の組み合わせは一考に価します。
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篠原 菊紀(しのはら きくのり)先生
公立諏訪東京理科大学 情報応用工学科教授(脳科学、健康科学)。東京大学、同大学院教育学研究科修了。『頭がいい子を育てる8つのあそびと5つの習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。『子どもが勉強にハマる脳の作り方』(フォレスト出版)など著書多数。NHK夏休みこども科学電話相談など、TV、ラジオ、雑誌でもご活躍。
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